大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

宮崎地方裁判所 昭和23年(モ)7号 判決 1948年6月08日

申請人

延岡貨物運送自動車株式会社

被申請人

全九州自動車産業労働組合

宮崎県支部延岡貨物分会

主文

当裁判所が申請人被申請人間の昭和二十三年(ヨ)第一号仮処分命令申請事件について昭和二十三年二月五日にした仮処分決定は、これを左の如く変更す。

(一)、別紙第一乃至第四目録記載の物件に対する被申請人の占有を解き、申請人の委任したる宮崎地方裁判所執行吏にこれが保管を命ず。

執行吏は第三者を選任しこれに保管せる右物件の管理を命ずべし。

この場合右管理者は申請会社従来の方針に従いその保管に係る物件を使用して貨物輸送を行うべく、その際被申請分会員にして従業せんとする者をも使用指揮することを得。

執行吏は右第三者が選任せられその管理に着手するまでは仮に被申請人に保管せる右物件の管理を命ずべし。

この場合被申請人は申請会社従来の方針に従いその従業員を指揮してその保管に係る物件を使用して貨物運送をなさしめ運送料金その他の収益はこれを保管して従業員の給料その他会社の経営費を支弁し残余金あるときはその名義を以て預金すべし。

(二)、訴訟費用は被申請人の負担とす。

事実

申請人代理人は「宮崎地方裁判所が申請人被申請人間の昭和二十三年(ヨ)第一号仮処分命令申請事件について、昭和二十三年二月五日にした仮処分決定はこれを認可する」という趣旨の判決を求め、その理由として、

(一)、申請会社は昭和二十一年十二月十五日その従業員を以て組織する延岡トラツク労働組合と労働協約を締結し爾来右協約に基き適宜経営議会を開催し同二十二年九月十日には宮崎県地方労働委員会の調停を受諾し組合員の平均実収月額を増額し臨時手当支給制度を定めたりして労資協調の実を挙げてきた。

(二)、ところがその後右労働組合は解散して新たに全九州自動車産業労働組合宮崎県支部延岡貨物分会(以下被申請分会と略称する)が組織せられ、同分会は昭和二十二年十二月十一日申請会社に対し(一)被申請分会との間に労働協約を締結すること(二)退職金制度を確立すること(三)越年資金を支給すること及び(四)結婚資金を支給すること、という四項目の要求を提出した。

(三)、そこで申請会社は熟慮の上同月十六日被申請分会に対し、右要求中(一)(二)(四)の各項は申請会社の従業員を以て組織する単独の労働組合との間においては考慮する用意があるが、申請会社と全く関係のない被申請分会との間には締約するわけにはいかないし、また(三)項は申請会社現在の営業状態ではこれを支給する余裕がないので、結局右四項目の要求にはすべて応ずることができないという拒絶の回答をした。

(四)、ところが被申請分会は同日闘争宣言書を発表し、同月十七日には定時出勤退社を通告し、ついで同二十三年一月六日附の通告書を以て同月七日午前八時を期して申請会社の業務管理を断行すると通告してきたので、申請会社は即日業務管理の不法性を指摘して申請会社の所有に属する車輌、貯蔵物品(木炭、ガソリン、モビール及び部分品等)その他を使用することを拒絶する旨回答したところ、被申請分会は業務管理は法律によつて与えられた争議権の発動であるから申請会社の意思がどうであろうと業務管理を断行すると回答し、遂に一月七日より業務管理を実行して今日に及んでいる。

(五)、しかし申請会社は全て被申請分会に対し申請会社の経営権に介入することを許諾したことがないから、会社経営上の一切の権利義務はすべて申請会社に帰属するものであり、従つて被申請分会が申請会社の営業権及び車輌燃料部分品等(別紙第一乃至第三目録所掲)をその承諾を受けずに実力を以て占拠した上勝手に使用することは法律上不法であり、また申請会社の業務経営上最も必要な重役室占拠し被申請分会に加入していない各課長の事務用机を他に移して事務室(別紙第四目録所掲)の重要部分を闘争本部として使用し以て申請会社の重役及び課長等の執務を妨害していることは許し難いところである。

(六)、それで申請会社は被申請分会に対し叙上物件等の引渡並びに妨害排除請求の訴訟を提起するが、若しこの事態を本案判決が確定するまでこのまゝに放任しておけば、車輌の損失燃料の補給及びその対策等に著しい支障を来し、ひいては申請会社は自滅のほかなくこの損害は到底回復することができない状況であるから本件仮処分命令を申請した次第であると陳述し、

被申請人代理人の答弁に対し、

(一)、争議行為が民事上刑事上の責任を問われないのは、それが正当な争議行為である場合に限られることは労働組合法第一条第二項第十二条の解釈上明かなところであるが、この正当性の有無を決定するに当つては現行労働法規制定の由来に徴しこれを一貫する理念即ち民主々義的諸原理特に均衡の原理と暴力否定の原則に注目すると共にまた右法規が掲げる我国経済の興隆という最終の目的を看過してはならない。しかるに生産管理の実際においては同盟罷業怠業と異り、労働者は自ら何等の不利益を受けずして使用者のあらゆる対抗手段を封じ使用者が屈服するか企業が破壊し尽くす迄これを持続し得るのでかゝる使用者の抵抗力を奪いつくす底の強力な争議方法は右均衡の原理に反し、また通常事業所其の他企業の物的要素の完全な占有を図るために使用者側を暴力を以て駆逐するのを常としこれ亦前叙暴力否定の原則に抵触し、更に若しかゝる生産管理にして正当なりとせられ労働者においていつでもこの方法をとりうるものとせんか、資本主義的経済機構下における我国において将来企業に対し新たに資本を提供する者は減少しために資本の蓄積は減退し経済は衰微の一途を辿る外なく我国経済の興隆なる最終目的は到底期し得べくもない。

(二)、また憲法及び労働法が労働者の団結権並に団体行動権を保障したのは、現実に巨大な資本を擁し強力な生産手段を有する企業家に対し真に平等の立場に立つてこれと対等の取引をなすためには労働者はその数的優位より団結する以外に途がないからである。保障の目的にしてこゝに存する以上その限界も亦労資双方の地位、力の対等にあり、それ以上に労働者を企業者より優位に置かんとするものでなく、また憲法が一方財産権の侵すべからざることを規定している趣旨からみれば労働者の団結権団体行動権を企業家の所有権経営権に対し優位に立たしめんとするものでなく、更に労働法も他の諸法と共に一の法律秩序を形成しているものであり、すべて統一的に解釈せらるべく決してこれに優越して適用されるべきものでない。生産管理は右の各趣旨を無視するもので正当な争議行為と認め難いから企業家の所有権経営権が労働者の生産管理による侵害を認容すべきいわれはない。

(三)、更にまた労働者の団結権団体行動権の利用も財産権のそれと均しく公共の福祉即ち社会一般の福祉に従はなければならないことは憲法上明かであるが、本件生産管理開始以来被申請分会は従来申請会社の事業の大半をしめていた旭化成株式会社延岡工場に対する石炭並ガラ運搬のための配車を拒絶したゝめ我国経済再建のため重要な地位をしめる同工場の運営に多大の支障困難を招来せしめているが、かゝる事態を生ぜしめた被申請分会の管理方法は明らかに公共の福祉に反するものといわねばならないし、かゝる配車の拒絶により一面重要な顧客を失うと共に他面運賃収入の低下を来すが如きは従来の申請会社の運営方針を守らずこれに著しき変更を加えたもので、管理者としてなしうる行為の範囲を越えその注意義務の制約に反し企業の実体に対する侵害を敢てしたものと謂うべく、本件業務管理の違法たるや到底免れないところである。更に自動車交通事業法第十六条の三の規定によれば本件の如き自動車運輸業は主務大臣の免許を要するのであり、その免許は申請会社にあるから嘗て右免許を受けた事実のない被申請分会が行う本件事業の経営は右法律に違反するものである。

(四)、かくの如く生産管理は正当な争議行為でなく違法であり申請会社は従来通常の状態において事業を経営し、怠業等の事実はもとより一般大衆及び被申請分会員の利益を侵したことは更になかつたのに本件業務管理によりその所有権経営権に現に侵害を受けつゝあるのであるから申請会社が前示物件等を業務管理前の状態に回復するため裁判所に救済を求め本案訴訟が確定するまでの保全処分として本件仮処分を申請したのは当然であり、決して仮処分制度の濫用ではないと陳述し、なお、申請会社は現在においては適正妥当な条件ならば、被申請分会との間に協約を締結する用意があると附陳した(疏明省略)。

被申請人代理人は、

「主文第一項掲記の仮処分決定はこれを取消す。申請人の右仮処分申請はこれを却下するとの判決並びに仮執行の宣言」を求め、答弁として、申請人代理人が主張した事実のうち一乃至四項は認めるが、五、六項は否認する。

労働組合法労働関係調整法及び労働基準法等一連の労働法は労働関係という特殊の集団的関係に立脚して多くの特別規定を設け、その範囲において民商刑法等一般法の適用を排除している。即ち労働組合法第一条第二項、第十一条、第十二条においては労働者の正当な争議行為には実質的違法性はなく、民事上刑事上一切の責任を免れるものとしているが、この正当性の有無を決定するにしては同法第一条第一項の立法精神と前叙労働関係の特殊性を認識し産業民主化の過程における我国の現況、労働組合の右過程における重大使命を把握した社会観念に立脚して慎重に処理することが緊要であり、このことは業務管理が争議行為として正当なりや否を決定する場合においても同様である。さて生産管理業務管理はその一形態は一応概念的には使用者の経営占有権をその意思に反して排除し労働者がこれに代行して業務を経営し以て争議の要求を貫徹するものといわれているが、それは労働組合の落着いた処置によつて理想的に行われる限り殆ど違法の契機は含まれていない。即ち先づ生産管理の実施に当つて暴行迫脅或は占有侵奪による社会の平穏に対する侵害という刑事上の違法性が常に随伴するものとは限らない。却つてこれなきが常態である。生産管理の実施により工場から閉め出される者は使用者又はその利益代表者たる少数の者であり、時には現実にかゝる閉め出しが行はれず単に指揮命令系統の中断によつて業務管理が遂行されることすらある実情である。次に業務管理において組合は従来の使用者側の業態に特別の変更を加えず、その運営方針諸慣習を守つて管理する場合が多く、時に已むを得ず従来の業態に変更が加えられる場合においてもそれは専ら使用者のために為されるのであるから権利の侵害による損害賠償法上の違法性も必至のものではない。更に現代経済社会における企業の経営と所有の分離の傾向及び所有権の社会的制約の面から考えると、企業所有権は債権的な利潤徴収権能と化しつゝあり、所有物に対する直接の使用収益処分の権能は企業経営者の手中に帰しつゝある現状であるから、生産管理は所有権に対する侵害ではなく寧ろ企業経営権具体的には企業指揮権に対する干渉と見るべきところ、近時経営協議会制度により労働者の経営参加が行われる趨勢に着目するときは、かゝる企業経営えの干渉も軽微な違法性を存するに過ぎない。しかもかゝる軽微な違法性とてもそれは労働組合が業務管理という争議行為を採用するにつき正当な理由がある場合には適法なものとなる。即ち業務管理が、その業態において最も効果的で損害も少く或はその事業の社会的公益的見地からして唯一可能な争議行為であるとか、同盟罷業を秩序正しく実施するための前提として行われる場合とか、更に広く我国経済の現状から肯認される場合の如きであるが、生産管理が現在我国において罷業における産業再建の阻害を避止し資本家が生産サボタージュにより資材の昂騰を期せんとする利己的意図を粉砕するに役立つ場合の多きを見るならば、生産管理は正当にしてしかも資本家に対等な争議行為として労働法所定の保護を受くべきものである。さて翻つて本件業務管理の内容を検討してみるに(一)本件の業務が食糧生鮮品等の貨物の自動車運送である以上その公益性からみて争議行為として罷業をするに適しなかつたゝめ業務管理を選んだのであり業務管理をするについて正当な理由があるわけである。(二)被申請分会は業務管理開始以来運送経営その他の面において従前申請会社が採つていた規則慣習等諸方針に従つており、業績は却つて業務管理前に比し向上している現況である。(三)業務管理は常に善良な管理者の注意義務を守つて理想的にしかも平穏に行われ、これに違反する行為は全く見られない。(四)また使用者たる申請会社に専ら損害を与えることのみを目的とするが如き行為わなされていないばかりでなく正当な争議行為の範囲を逸脱する虞のある行為はつとめて避けている。かくの如く本件業務管理においては個々の行為についても不法不正の事実は全くなく他に本件業務管理を違法とする特段の理由もない。

次に争議行為の正当性の有無を決定する際緊要なりとした前記の社会観念は労働関係につき労働法に特別な規定がなく一般法を適用する際にも必ず考慮しなければならない。ところで労働争議中になされる仮処分は使用者が専ら労働者の団結に精神的動揺を与えんがため対抗手段としてなすものであり、殊に業務管理においては労働者が賃銀値上げを要求する代りにその義務を果たし社会的義務に停滞を生じしめまいという崇高な精神を蹂躙するものであり実に民事訴訟の濫用に外ならない。よつて前叙の如く日本民主化の過程において労働組合の占める地位と使命を認識するならば、かゝる争議権の制限乃至は弾圧となる仮処分制度は争議行為に適用されるべきものではない。

のみならず仮処分制度は本来本案訴訟の判決を保全するためのものであり仮処分がなされるためには、第一にこれがなされなければ判決の執行をなすことができないか又はその執行をなす上に著しい困難を生ずる処があることが必要であるが、本件業務管理においては前に述べた如くその個々の行為についても全く不法不正の事実がなく正当に行はれており、また争議行為殊に業務管理においてそれが使用者の意思に反しその物品を使用し職場を占拠して行われることは当然であり一方所有権の社会経済的制約を考え合わせると、労働組合法第十二条第一条第二項に規定しているように使用者は労働組合又は組合員に対し争議行為によつて受けた損害の賠償を請求することができないと共に労働組合又は労働者は使用者に対しその業務の妨害或はその所有権の侵害について責を負うこともない。それで結局本件の場合には仮処分によつて保護されるべき本案訴訟の目的物を欠如しているものといわねばならない。また第二に仮処分制度の本質上急迫の事情がなければならないが本件業務管理においては叙上の如く被申請分会は善良な管理者の注意義務を以て従来申請会社の採つていた経営上の諸方針に則つて業務管理を遂行しているから申請会社のいうが如き急迫な事情も別にない。かくの如く本件業務管理においては本案訴訟の理由も仮処分による執行保全の理由も共にない。

然るに申請会社は業務管理を否定して本件仮処分の挙に出たが、この仮処分は多くの作為命令を含んでおりまた代替して執行を許すべき性質のものでもないところ申請会社及び被申請分会の各代表者とならんで共同管理者の一人として指定された中立側の人物がその実申請会社と特殊な関係に立つ業者であるところより被申請分会代表者においてこれを拒否した結果本件仮処分の執行はその効果をあげ得ず不能のまゝに徒らに事態を紛糾させ業務の運営を阻害し争議の解決を遷延させている現状である。以上の理由によつて本件仮処分決定は取消さるべきものであると陳述し、更に

被申請人の答弁に対する申請人の陳述に対し、

憲法の論理的解釈上労働者の団結権団体交渉権は財産権と異り絶体的基本的人権で法律によつてもこれを制限することを得ないのであり、この行使により労働者の地位を向上せしめひいて産業の民主化を来し経済の興隆に寄与せしめるため財産権の侵害に対し労働組合法第十二条の免責規定が存するのであり、又生産管理はその性質上使用者の業務の代行で管理終了後は一切をあげて使用者に引継ぐべきものであるから自動車交通事業法違反の主張はあたず又かゝる特別法は争議権に譲歩するものであると陳述した(疏明省略)。

理由

被申請分会が昭和二十三年一月七日以来現在に至るまで申請会社の所謂業務管理を実施し申請会社所有の別紙第一乃至第四目録記載の物件等を使用して自動車による貨物運輸事業を行つていることは当事者間争ない。

よつて先づ本件業務管理開始に至る経緯について考えるに、当事者間争ない被申請分会が昭和二十二年十二月十一日申請会社に対し提出した(一)被申請分会との間に労働協約を締結すること(二)退職金制度を確立すること(三)越年資金を支給すること(四)結婚資金を支給することという四項目の要求に対し、申請会社が同月十六日被申請分会に対し越年資金については申請会社当時の営業状態ではこれを支給する余裕がなくその他の三項目については申請会社の従業員のみを以て組織する単独の労働組合(従前かくの如き労働組合即ち延岡トラツク労働組合が存しこれが解散されて被申請分会が組織せられたことは当事者間争ない)との間においては考慮するが、全九州自動車産業労働組合の下部組織たる被申請分会は申請会社と関係がないのでこれとの間に締約するわけにはいかないという理由で全面的に拒絶し来つたという事実、成立に争ない疏乙第六号証の四、被申請分会代表者石川恒太郎の陳述によりその成立を認むべき同第五号証の各記載に陳述を綜合して認められる被申請分会は申請会社より右回答を受けて以来一方宮崎県地方労働委員会に斡旋方依頼すると共に申請会社と数次に亘る交渉を重ね来つたが申請会社に被申請分会を締約の相手とする意向が見えず協議が整うに至らなかつたので被申請分会は遂に争議行為に出づることとなつたが、本件運輸事業の公益性、被申請分会員の勤労意欲及びその生活の安全更に経済再建に直面せる我国の現状を考慮した結果罷業を選ばずに寧ろ業務管理の方法に出ることとしたという事実を考合すれば、被申請分会が本件業務管理を開始するに至つた事情は一応尤もなりとして肯認することができる。証人安村勉吉(一回)の証言中右認定に抵触する部分は措信せず他にこれを覆えすに足る疏明方法はない。

よつて次に本件業務管理のその後の経過について考えるに、

(イ)  成立に争ない疏甲第一号証の一、疏乙第六号証の八、九、前顕疏乙第五号証の各記載に証人安村勉吉(一、二回)の証言を綜合すれば、申請会社は従来旭化成工業株式会社延岡工場に対し石炭及ガラ運搬のため配車しこれより受くる運賃収益は延岡における年間総運賃収益の約四十五パーセントに達し同工場は申請会社にとり同地方における最も重要な顧客であり被申請分会も本件業務管理開始後同工場に対する配車を従来通り続行していたが、同年一月二十九日同工場において、同月支払うべき運賃四十万円につき申請会社被申請分会の何れに支払うべきかに当惑し右双方の話合によりその支払先の決するまで供託するが得策なりとし申請会社の申入に応じ一応被申請分会の支払要求を拒絶したところ、被申請分会は同工場の意思に反し即日配車を中止しその後申請会社及び右工場より配車方要求ありたるに拘らず今日に至るまでこれを拒絶し、よつて同工場の業務運営に対し、多大の支障を与えている事実を認めることができる。成立に争ない甲第一号証の二の記載及び前顕石川恒太郎(一、二回)の陳述中右認定に抵触する部分は措信せずに他に右認定を覆えすに足る疏明方法はない。

(ロ)  また成立に争ない甲第三号証の記載に証人安村勉吉(二回)の証言及び前顕石川恒太郎(二回)の陳述の一部を綜合すれば被申請分会は本件業務管理開始以後三月末日現在までの業績はその開始前に比し向上しており三十九万六百六十六円二銭の当期利益金を算定し得たというが右はその間当然補給すべかりしタイヤの補給をなさざりしにより生じたもので健全なる経営に基く黒字ではない。即ち従来申請会社は正規の配給以外に毎月六、七万円のタイヤ購入費を計上し辛じてその補給を計つておりまた右月間十八台の保有車に対し三十二万円に相当するタイヤを購入した高千穂営業所の先例に徴せば被申請分会は更に多額のタイヤ購入費を計上支出してタイヤの補給に努めねばならず申請会社現在の計算では右購入費としては六十余万円は必至と見ているのに、事実右月間被申請分会がタイヤ購入のため支出せしものは僅かに三万五千円という殆ど修理費に満たない程度のものに過ぎなかつたのであり、そのため所謂足あげ車が次第に増加する傾向にある事実を認めることができる。証人宮田亀彦の証言により成立を認むべき疏乙第二号証証人西村金治の証言により成立を認むべき同第一、三及び四号証の各記載、右各証人及び証人吉岡勇の各証言及び前顕石川恒太郎の陳述中右認定に抵触する部分は措信せず他にこれを覆えすに足る疏明方法はない。

かくの如きはいずれも申請会社従来の業務運営方針を著しく変更するもので殊に(イ)の配車の停止は申請会社の同工場に対する従前の信用を失墜し将来の取引及び運賃収益に著しい支障を来す処あるもの、また(ロ)のタイヤ補填の不円滑はこの状態で推移するならば遠からずして全車の足あげを招来するもので共に申請会社の事業を危殆に導くものと判定できるから本件業務管理はその後の経過においてはその余の点について判断するまでもなく既にこの点において失当に帰したものと言はねばならない。

しかして現在適正妥当なる条件であれば被申請分会との間に協約締結の用意あることは申請会社の自認するところであり、かかる争議を早期に解決して労資協力して刻下の経済再建に資すべきことは緊要のことであるから当裁判所もこの点を考慮してさきに本件仮処分決定においては争議の渦中に立たない第三者の参加によりその公正なる調整をうけつつ第三者の協議による共同管理共同経営のうちに争議両当事者の相互の理解尊重を昂め以て争議の円満なる自主的早期解決を期待したのに、その目的を達するに至らなかつたのであるが、叙上疏明の程度において一応本件業務管理が失当に帰したことが認められるとはいえかかる運輸事業は公益上一日の停滞も許されない。

よつて本件物件は一応これを執行吏の保管に移すが、その管理は執行吏の選任した第三者になさしめこの場合この第三者は申請会社従来の方針に従い右保管物件を使用して申請会社の事業たる貨物運輸を行うべく、その際被申請分会員にして従業せんとする者をも使用指揮することができるが、この第三者が選任されその管理に着手するまでの期間は仮に被申請分会をして右管理並びに貨物輸送の衡に当らしむべく、その際同分会は運送料金その他の収益を保管して従業員の給料その他会社の経常費の支弁にあて残余金あるときはその名義を以て預金しなければならないこととした。よつて本件仮処分決定を右の如く一部変更し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用し、主文の如く判決する。

別紙物件目録抄

第一目録 トラツク等十九台。 第二目録 木炭三〇〇俵。

第三目録 部分品及び潤滑油。 第四目録 建物一棟。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例